写真:久しぶりに本を買った
ゼレンスキー・トランプ会談
つい先日、ウクライナのゼレンスキー大統領が米国を訪れて、トランプ大統領とヴァンス副大統領にけちょんけちょんにコケにされ、(リンク先21:25頃から)その後の予定はキャンセルされ、何の合意もなしに執務室をあとにした。
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ヴァンスの「外交に注力している」との発言に、ゼンレンスキーから「どんな外交のことをあなたは言っているのか」(前出リンク先23:38頃)と、返しをされてから会談はヒートアップし始めたように見えた。
ヴァンスは質問に対して答えられないので、話題をズラして、とにかく攻撃的に発言し続けた。
そんなに得意ではない話題を自分から発言してしまい、単純なことを問われて、妥当な返答を持ち合わせてない(が、まくしたてるのは得意な)人に良くありがちなリアクションだ。
しかし彼は声も大きいし、ああ威圧的な態度でまくしたてられると、言葉の押収での太刀打ちはそう誰でもできるものではないだろう。
良くても、発言に中身がない分、売り言葉に買い言葉のサイアクな状況になってしまいそうだ。
しかもゼレンスキーにとって英語は第一言語ではない。既にアンフェアだ。
この時のゼレンスキーの心境は察するに余りある。
一方で、先ほどのリンク先の動画の冒頭で、ゼレンスキーになぜスーツを着ないのか、と質問が飛んでいたが、これについては同意だ。
ウクライナ戦争が始まったときからずっと思っていたし、首脳会談を見るたびに気になっていた。
外交の公の場なのに正装しないなんて。
礼節を欠くし、どこに行くにもあの軍装を続けて何の意味があるのか。
日本で「キエフ」表記が「キーフ」に変わって喜んでいるくらい意味がない。
まあそんな話題は置いておいて、第二次トランプ政権が転換点となり、米国は孤立主義へ戻り、欧州と米国との関係は解消され、ロシアの言う多極世界に大きな流れは向き始めたかのように見える。
最近読んだ書籍がそういった流れを予期しているかのごとく書かれていたので非常に興味深かった。
西洋の敗北
「西洋の敗北」というフランス人のエマニュエル・トッド(歴史人口学者・家族人類学者)が書いた本だ。
「英語にまだ翻訳されていない」というふれこみで広告されていたが、まあ中身は西洋の人々には受け入れがたいと思われる内容満載だった。
イスラエル人には許容できないであろう一文もあった。
しかし、日本の報道は西洋思想一辺倒になっているので、できるだけ不慣れな(または真逆な)意見に触れることは、一方向に染まってしまい立ち位置を見失わないことにとても重要だ。
この書籍の序章に入る前ページにとても秀逸な引用があった。
”相容れ難い利害や思想をお互いに守るべく、個人、集団、国家を紛争に巻き込む歴史なるものを、誰もが知っている。同時代人であれ歴史家であれ、一方が正しく他方が誤りだと、無条件で決定する資格はない。それは、われわれに善悪を見分ける力がないからではなく、われわれには将来は未知なるものであるとともに、いかなる歴史的動因でも、それなりに不正を含みにもっているからである。”
エマニュエル・トッド(大野舞訳), 西洋の敗北, p18
レイモンド・アロン「知識の阿片」の引用文からの引用
一文目は先の大戦を経験した国々には突き刺さるし、二文目はこれを念頭に置いておかなければ、議論の欠如や思考停止に陥る恐れがある。
最後の一文は、歴史的動因というものは、数十年あとに様々な人々に議論・研究がなされて初めて明らかになるもので、基本的にそれは各国の立場からくる自己都合の集合体であると、前期のWorld Modern Historyで学んだことを思い出させる。
西洋の敗北とは?
序章はウクライナ戦争から入っているが、題名の「敗北」は別にロシアに負けるとか、そういうことではなく、西洋は自ら崩壊していっている、というものだ。
トッドによれば、そもそもロシアは欧州にとって脅威ではない。
広大な領土を持ち、人口減少が始まっているロシアに領土を拡大する意図などなく、ウクライナ侵攻は、プーチンが絶えず警告し続けてきたNATOの東方拡大への自己防衛のためのリアクションであるという。
この自己防衛についてもロシアの考えは理解可能だと、わかりやすい説明にシカゴ大学の地政学教授、ジョン・ミアシャイマーの分析を以下のように説明している。
”現実主義において国際関係とは、互いに自己中心的な国民国家間の力のぶつかり合いだと考えられている。…ロシアは何年もの間、ウクライナがNATOに加盟することは許容できないと言い続けてきた。その一方でウクライナの軍隊は…軍備強化が進められ、NATOの「事実上」の加盟国になろうとしていた。だから、ロシアは以前から予告していた通りに戦争を始めた、…ミアシャイマーに言わせれば、ウクライナに侵攻したロシアに私たち西洋人が驚いたこと自体がまさに驚きなのだ。”
エマニュエル・トッド(大野舞訳)、西洋の敗北、pp29-30より引用
ロシア側にしてみれば、ナポレオンのフランスに侵攻され、ヒトラーのドイツに侵攻され、もう後手は踏まないぞ、との表明とも言える。
ロシアの侵攻に対して上記のような議論が西洋でされなかったことが問題だった。
西洋は侵攻を「理解不能」として片づけ、またあたかも世界には西洋の思想ひとつしかないかのような振る舞いを続け、世界が実際はそうではないことにいまだに気づけていない。
NATOの姿勢にロシア、中国はもちろん、インドまで関与を拒否した。
制裁をした国、していない国を地図上で見ると、どちらが支持されていないか一目瞭然だ。(本書内に地図あり)
最大の敵対国同士であったロシアとイランの接近の重要性にも西洋は気づけない。
そして欧州はもはや主体的な自己を失っていると。
2003年のイラク戦争時には、フランスとドイツが反対を表明し、プーチンを加えた3国首脳が共同記者会見を開いたことを考えると、重要な貿易相手になっていたロシアを制裁で自ら切り離し、自国の利益を捨てたドイツを例に、自らの利益すら判断できなくなるほど、米国への隷属化が進んでいる。
結果、欧州は経済的な混乱を招いている。
これら西洋諸国の非合理的な行動を”国民国家の消滅という仮説”をたて、トッドは説明を試みているが、この辺の内容を読むには「国民国家」の成り立ちからの基礎知識があった方が良いかもしれない。
プロテスタンティズム
第一章はロシアの安定と題して、いかに経済復興をしたかを乳幼児死亡率の減少など、人口動態から説明したり、ウクライナ支援の軍事的物資は不足しており、十分な技術者がいるロシアはそうでない米国にが有利である点など、なかなか普段触れることのないロシア側の事情が書かれている。
第二章は主にウクライナについて書かれている。
汚職の蔓延する破綻国家だったウクライナが、この戦争にどう耐えたのかという議論から始まる。
歴史も振り返りながら、人口分布と大統領選の投票した候補のデータなどから、東部と西部、都市部と地方を比較しながら、地域のイデオロギー的特徴などを解説している。
第三章以降は東欧の国々にも触れながら、プロテスタンティズムの話題がけっこうな内容を占め始める。
「プロテスタンティズム・ゼロ状態」とトッドは命名し、西洋の自己崩壊過程と現状説明をしているが、そもそもキリスト教が君主制や国民国家形成において、どんな役割を担ってきたかの知識がないと、プロテスタント国でない日本人には理解が難しいと思われる。
いま2周目で、3周目を読み終えるころには、そこらへんの内容をかみ砕いて書けそうであれば、後日追記していこうと思う。
日本と西洋との関係
日本の読者へ、というタイトルで冒頭に、脱西洋化が進む際の日本の立つべき位置についても少し言及されていた。
日本は敗北する西洋の一部であるのかと。
興味深かったのは、そもそも日本は西洋の言う”均一な世界”は受け入れられないのではないかというトッドの言葉だ。
元来「民族はみなそれぞれ違う」ということが日本人の根底にあるのではないか、と。
そうであれば、今後NATOが崩壊し、米国の支配から解放されたとき日本は、米英仏の言う西洋の目指す均一世界ではなく、多極的世界に近いものをめざすのか。
いずれにせよ、中流層(マス層)がキーを握る。
英語圏のテキスト
大学の講義は英語なので、いまのところテキストとして扱われる書籍やウェブサイトは米国か英国のものだ。
これはIELTSやケンブリッジ英検のテキストを読んでいたころから感じ続けていたことで、適当な日本語表現かどうか少し悩むが、英語圏で書かれたテキストは内容が少々押しつけがましいと思っていた。
IELTSやケンブリッジ英検テキストのリーディングむけ文章は、興味をそそる面白い話題が多いので、楽しめたし、総じて気に入ってる。
しかし、いつもどこか鼻につくというか、ここに記載されていることが唯一正しい考えで、我々は正しい、という思いがその文章のバックグラウンドにあることを感じざるを得ない文章に出会ってしまう。
そう感じてしまう文章を繰り返し読んでいると、西洋と違う考えを抱いてる人たちを想像もできないし、思いもしない、気付けもしない、またどうでも良い、と著者は考えている人なんだと理解するようになった。
大学で使用されるテキスト・講義内容にもそういったものを感じることがある。
特に World Modern History の講義から学んだこと、西洋の敗北を読んだことで、より西洋の画一的なモノの見方を感じるようになった気がする。
しかし残念なのは、BBCのサイトで記事を読んだあと、YouTubeで日本のニュース番組をひらき、BBCで読んだのと同じニュースを視聴すると、パクったんか?というくらい同じ流れのものを見させられることだ。
そんなので良いのか、日本のTV。
そして英語圏はプラスチックからクジラの話までいつも一方向すぎてうんざりである。
いま米国は戦争を終わらせようとしているが、そうなると英国やEU諸国はウクライナに戦争を続けさせようとしている、ということになるのか。
終わらせるしか道はないこともこの本は伝えてくれる。
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